ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約
by 山形浩生 (with Special TNX to 能登麻実子氏……の2ちゃんねるに巣くうキモヲタファンども諸賢)
能書き
- これは、John Maynard Keynes The General Theory of Employment, Interst, and Money (1936) の要約版だ。邦題は今まで『雇用、利子および貨幣の一般理論』(東洋経済、岩波文庫)だったものだが、「money」ということばを「貨幣」と訳すのが嫌いなのと、いろんなものを羅列する場合の and の使い方を直訳するのが嫌いなので、この邦題にしてある。テキストとしては 1953 年刊の HBJ 版を使っている。
- 要約といっても、勝手なつまみ食いじゃない。原書に登場するすべての段落 (ただし6章、14章、19章それぞれのおまけは除く) を、番号をふってまとめてある。以下で一行で表現されているのは、原文の一段落に対応している。こうすることで、恣意的な部分はかなり減る。何かでかい部分がごそっと抜けていることもなくなる。
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こういう形にしたのは、マルクスとかアダム・スミスとか訳していて、ちょっと疲れたからだ。昔の人はずいぶんうだうだと書く。忙しい現代人ならパワーポイント一枚ですませる中身を 10 ページかけてダラダラ書く。そういうのをいちいち訳したところであまり意味はない。そういうのをばっさり切ってすっきりまとめられたらいいな、と思ったからだ。
- 読む側だってさあ、一字一句なんか読むほど暇じゃないでしょ? そういう暇な人はご職業の方なんだから、暇にあかせて原書を読めばよろしい。これはそういう人のためのものじゃない。それにこの『一般理論』は、古典派以外にも考え方がある、というのの説明にかなりの紙幅を割いている。当時は、古典派以外の考え方があるとはみんな思ってなかったからだ。でも、いまの人はそんなことを長々と説明してもらわなくても、ケインズ経済学がある、ということは知ってるのだ。だから、そういうところは端折るほうがお互いのためだ。
- マルクスの場合、『資本論』は宗教書になっているのでこういう処理は難しい。アダム・スミスも多少そんなところはある。一方ケインズは、えらい経済学者だけど宗教になってない。だからこういう要約でも役にたつのだ。
- だから役にたててね。
- なお、原文を読みたい人はこちらに出ている。また、google books にもスキャンしたものが出ている。
- また、その後物好きにも全訳も作成した。こちらをどうぞ: https://genpaku.org/keynes/generaltheory/html
目次
- 序文
- 第 I 巻:はじめに
- 第 II 巻:定義と考え方
- 第 III 巻:消費性向
- 第 IV 巻:投資をうながす
- 第 V 巻:賃金と価格
- 第 VI 巻:一般理論が示唆するちょっとしたメモ
まとめ人の疑問点
wage-unit (賃金単位)というのがたくさん出てくるが、これはほぼ労働者の一人あたり平均賃金を指している。その賃金単位で計った国民所得、といったものもしょっちゅう出てくる。これはつまり、日本のGDPは470兆円で、一人あたり賃金470万円だから (2009年)、日本のGDPを 1億 賃金単位である、というふうに表現しろ、という理解でいいんだろうか? (← そういう理解でオッケーの模様。少し復習したら思い出した。)
要は、GDP470兆円といっても、一人あたりの賃金が多いところでこの数字と、小さいところでこの数字というのでは、意味が全然ちがってくるということ。何かアンカーがないと解釈しようがない。だから、一人あたり平均賃金で何人分だと考えることで、いわば実質化できるわけですな。ここらへん、細かく言い出すとちょっとちがう面もあるが、ほとんどの場合は単なる実質化のために使われている。
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2011.10.10 YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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